特に敏感な肌を持っているわけではありませんが、お風呂でも石けん、洗濯も粉石けん、食器洗いはぬか袋、という家で育ちました。
自立して生活するようになって、「洗剤はドラッグストアで買う」という思いこみそのままに、合成洗剤である洗顔フォーム、台所用洗剤などを買い、使ってみてその違いにびっくりしました。いくらすすいでもヌルヌルしているのが気持ち悪くて、合成洗剤を使ったあとの手は必ず石けんで洗い直してました。今思えば変なことをしていたものです。でも、そのころはまだ、「ヌルヌル」の原因は合成界面活性剤であるということは知らず、それどころか、石けんと合成洗剤がまったく違うものであることも知らず、ずっと合成洗剤を使い続けていました。
そんなふうに合成洗剤と石けんの入り交じった生活の中でも、洗濯にだけは、合成洗剤の人工的な匂いが好きになれず、ずっと粉石けんを使っていました。
「でも、粉石けんは値段が高いし、手に入れづらい。匂いのきつい安い洗剤で妥協してしまおうか。」
そう思い始めていた時、ふと思い付いてインターネットで「粉石けん」を検索してみました。すると、「粉石けん」の製品紹介のみならず、石けんの原材料、石けんが作られる時の化学反応、などの詳しい説明がずらずらと出てきました。
そこで初めて知った、石けんと合成洗剤の違い。それまで自分が疑問も持たず、でも、気に入らない使用感と感じていたヌルヌルの正体も、この時やっとわかりました。それからは徐々に石けんを生活に取り入れ、合成洗剤は排除していきました。
石けんを作ってみようと思ったのは、なかなか自分の髪質に合う石けんがなかったから。細くて癖のある私の髪は、洗浄力が強すぎると水分を蓄えていることができずゴワゴワになり、からまってちぎれてしまいます。当時、市販されている石けんの種類は今とは比べものにならないほど少なく、石けんの原料に使われている油脂も限られていました。ほとんどの市販の石けんで試してみましたが、どの石けんを使っても髪はゴワゴワでした。
そのときはまだ、油脂は脂肪酸から構成されていて、それぞれの脂肪酸には特徴がある、油脂の種類により石けんの使い心地は違う、なんてことはまったく知らなかったのですが、市販品でダメならとにかく作ってみよう、と思い、シャンプー石けんを作りました。
初めての自作石けんにお湯を少し付けて泡立ててみると、ぶくぶくと市販品と変わらない泡立ちです。手作りの石けんが市販品と同じように泡立つ、というのがとても不思議で新鮮に感じられました。手を洗ってみたら、刺激もなくちゃんと洗えます。思い切って、髪を洗ってみました。
いつもと同じ手順で洗い、同じようにリンスし、同じように乾かします。
あれ?乾かしている時に、髪の引っかかりが少ないような気がします。乾ききったあと、髪の広がりが落ち着いているような気がします。でも「気がする」程度です。にもかかわらず、この時、「もっと石けんのことを知って作れば必ず満足できる石けんが作れる。」と確信めいた思いで頭の中はいっぱいになり、それからは、石けんのこと、油脂のこと、脂肪酸のことを調べては試作を繰り返す、という時間が、私の生活の中に大きな割合を占めるようになっていきました。
石けんを作って、それを使って、その使用感を基にまた新しい石けんを作って、という繰り返しを何度もして、今は、満足できる洗い上がりのシャンプー石けんにやっと片手が届いたと思います。でも、まだ、もっと自分の髪質に合った石けんが、遠くで作られるのを待っているような気がします。
さっぱりとした洗い上がりの石けん、しっとりと洗い上げる石けん、どんな石けんもそれぞれ個性を持っています。そして、人の肌もそれぞれです。他の人たちがどんなにいいと言っている石けんでも、自分には合わないこともあります。でも、どこかに自分に合う石けんがあり、ぴったりの誰かに見つけられるのを待っています。みなさんも自分にあった石けんを見つけ出してください。