油脂の素、脂肪酸
ラードは固まっている脂、オリーブオイルは液体の油、チョコレートの原料にもなるココアバターは固まっているけど手の上にのせると溶ける脂。このように油の種類によってそれぞれ特徴があります。(常温で固体の油脂は"脂"、液体の油脂は"油"と区別します。)
図1:ラードとオリーブ油とココアバター
油脂は一つのグリセリンと三つの脂肪酸が結合しています。(→「油脂が石けんに化ける反応」の「油脂を形作るもの」)
グリセリンは1種類で、どの油脂のグリセリンも皆同じです。でも、脂肪酸にはいくつもの種類があり、その違いが油脂の特徴を作っています。
図2:油脂の構成(構造式)
いろいろな脂肪酸
主な脂肪酸の名前を挙げてみると、カプリル酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などたくさんありますが、その中からいくつかの脂肪酸に注目して脂肪酸がどんなものかみてみます。
図3:ステアリン酸
CH3(CH2)16COOH
脂肪酸はすべて、1つの鎖式炭化水素基と1つのカルボキシル基(-COOH)が結合してできています。どの脂肪酸でもカルボキシル基と鎖式炭化水素基の数は1つづつですが、鎖式炭化水素基の長さの違いが脂肪酸の種類の違いになります。
ステアリン酸
の場合、鎖式炭化水素基の中の炭素原子(C)数は17コ
と決まっています。そして、カルボキシル基の炭素原子と合わせて、炭素数が18コ(C18)
であることがステアリン酸の大きな特徴です。
図4:オレイン酸
CH3(CH2)7CH:CH(CH2)7COOH
オレイン酸
はステアリン酸と同じ様に、鎖式炭化水素基の中の炭素原子(C)数は17コです。この点ではステアリン酸とオレイン酸には違いがありません。
オレイン酸がステアリン酸とは違うのは、図3を見て分かるように、カルボキシル基の炭素原子から数えて9番目と10番目の炭素原子間が二重結合
になっていることです。
炭素数が18コで二重結合が1つある(C18:1)
という点が、オレイン酸の大きな特徴です。
"C18:1"の"C18"は炭素原子が18コであることを表し、":"の後ろの"1"は二重結合が1つあることを表しています。なので、ステアリン酸も単に"C18"と表すのではなく、"C18:0"と表されることがあります。
ステアリン酸のように、
鎖式炭化水素基に二重結合を持たない脂肪酸を飽和脂肪酸
、オレイン酸のように1つ以上の二重結合を持つ脂肪酸を不飽和脂肪酸
と呼びます。
ステアリン酸もオレイン酸も炭素数18の脂肪酸ですが、ステアリン酸に代表される飽和脂肪酸は常温で固体であるということと、酸化されにくい
という特徴を持ち、オレイン酸に代表される不飽和脂肪酸は常温で液体であることと、酸化されやすい
という特徴を持つという点が違います。
不飽和脂肪酸は、二重結合の数が多くなるほど酸化されやすくなります。
図5:ミリスチン酸
CH3(CH2)12COOH
ミリスチン酸
は、炭素原子(C)数は14の飽和脂肪酸
です(C14:0)。
ステアリン酸と同じく、常温で固体で、酸化されにくいという特徴を持ちますが、ステアリン酸の融点は約67〜70℃、ミリスチン酸の融点は約53〜58℃で、ミリスチン酸の方が低い温度で液体になります。通常、炭素数の少ない脂肪酸の方が融点が低く
、比較的低温で液体になりやすいという傾向があります。炭素数が多くても不飽和脂肪酸の場合は、常温で液体であることがほとんどです。
脂肪酸の特徴をまとめると、
- 脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がある。
- 飽和脂肪酸は常温で固体、不飽和脂肪酸は常温で液体。
- 飽和脂肪酸の炭素数が多い方が融点が高い。
- 飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸の方が傷みやすい(酸化されやすい)。
ラードとオリーブ油
ラードとオリーブ油の脂肪酸を比べてみます。
| ミリスチン酸 C14:0 | パルミチン酸 C16:0 | パルミトレイン酸 C16:1 | ステアリン酸 C18:0 | オレイン酸 C18:1 | リノール酸 C18:2 | リノレン酸 C18:3 |
ラード | 1.4% | 23.8% | 3.0% | 15.7% | 39.4% | 12.8% | 1.4% |
オリーブ油 | | 9.8% | 0.6% | 3.2% | 73.8% | 11.1% | 0.4% |
ラードに含まれている飽和脂肪酸はミリスチン酸とパルミチン酸とステアリン酸で、全部合わせて40.9%になり、そのためラードは常温で固体の脂です。
オリーブ油の場合、一番多いのが不飽和脂肪酸であるオレイン酸の73.8%です。オレイン酸は常温で液体の脂肪酸なので、オリーブ油も常温で液体です。
このような油脂の特徴は石けんになったときにもそのまま表れます。
ラード100%の石けんは飽和脂肪酸であるミリスチン酸とパルミチン酸とステアリン酸の特徴をそのまま受け継いで、硬くて溶けにくい石けんになります。硬くて溶けにくいということは、石けん受けの上でどろどろに溶けてしまうことはなく長持ちしますが、冷水で使うとなかなか溶けず使いにくいという事でもあります。
逆に、不飽和脂肪酸の多いオリーブ油100%の石けんは柔らかくて溶けやすい石けんになります。
それぞれの脂肪酸の特徴は固体か液体かだけではなく、泡立ちや洗浄力などの違いもありますが、それについては今後改めて書いてみたいと思います。
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